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まじいなぁ~  ・・・ No24
- 2018/01/09(Tue) -
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 ノイちゃんが店から出て、姿が見えなくなってから、汚れた灰皿を手前に引き込み、タバコに火を付けた。 客は2組、同伴前の時間つぶしだろう。 4人掛けのこの奥のテーブルからは厨房の中がよく見え、料理をしている2人の男とママがオーダー表に目を通していた。 忙しそうには見えなかった。 

「コー ガイヤーン (焼き鳥) ノイ」 タイ語で厨房へオーダーしてみた
厨房で料理をしていた男が2人とママが一瞬こちらをみた

「ガイヤーン ですね」 ママが答えた
「コウプ クン。 レ、タキャヤップ ノイ クラップ」 (それと、割り箸をおねがいします)と追加した
「カッ」 ママが答えて割り箸を探してこちらへ持って来た

「コンタイ ルー プラオ?」 タイ人?
「メシャイ コン ジープン クラップ」 いいえ、日本人です
「ワットパクナムで何度も合っていますよ、ママさんとは」
「え?そうですか?」
「ええ、ですからママさんの事は知ってました。 勿論、ここ、ゲオ チャイの事もね」 たたみかけた
「そうですか~有り難う御座います」

「この前の リカさん の件、大丈夫ですか?」 話をきりだして、ママの反応を見たかった
「リカの知り合いですか?」 一瞬ママの顔が警戒を見せた
「いえいえ、リカさんとは知り合いではありませんが、一緒に逮捕されたタエちゃんの友達です」
「・・・・・」 言葉がつかまった

 60代後半に見えるが化粧の若作りで50代にも見える。 ただ、身に付けている貴金属が高級品ばかりなので、ただ者では無いことは十分に感じられた。 身につけているアクセサリーが全てが24Kとダイヤとルビーばかりだった。


「警察の人ではないですよね・・・あなた」
「いえいえ、ですから、成田のワットパクナム寺で何度もママとはすれ違ってますよ、10年も前から」
「そうなんですか・・・」
「ほら」 2枚の古い写真を財布から取りでして、テーブルの上に置いた

         ワットパクナム 10年位前かな・・

 現在ではこの僧侶がタイ王国・タンマカーイ派のNO1である。 成田での式典の時の2枚だった。 いつも財布の中に入れてある写真だ。

「この写真は・・・・」 ママの目に涙があふれ出した
「あ~俺、随分と若く写ってますがね。10年か15年前の写真なんでね」 15年も前の写真だ
「タイで半年ほど、ここの本院で坊主の修行もしてますし、日本分院も大きくなって、雰囲気が大好きなんですよ」
「全てはゲオ チャイさんのご尽力と聞いています」

                最近     つい最近

「あなたは・・・」
「新宿の めめ と言います。 タエちゃんの友達なんですよ 俺」

「新宿のめめさん・・・・ え? 本当ですか?」
「ええ、本当の、本物ですけど ^^」

 テーブルのイスに腰をゆっくりと下ろした。
「どうぞ 1人で飯を食っていたとこなんで」

「新宿のめめさんの事は良くタイの娘達から聞いていました。 そんなボランティアみたいな人なんでいるはずがないと・・・」
「ええ、ボランティアではやっていません。 自分から、気がむいた事にしか首を突っ込みませんけどね」
「今回はタエちゃんのニュースを見て、ただ事ではないと思って、気になっていました」
「ニュースで流れましたものね・・・」
「リカさんとタエちゃんだけは随分と報道されましたね、何度も何度も」
「そうなんですよ・・・テレビを見た友達、皆んなから、沢山の連絡がありました」
「大変でしたね」
「・・・・・」

「で、弁護士さんを雇ったんですよね」
「どうしてそんな事まで」 驚いた顔をむけた
「タエちゃんの居場所が分からなくて、あちこち電話をしていたら居場所が分かったんですよ」
「弁護士も付いていることも知りました」
「で、わざわざ金沢からタエちゃんの旦那さんと面会にいったら・・・タエちゃんが友達の俺も、旦那さんも2人とも知らないと、言われて、面会出来なかったんですよ」
「・・・・・」
「不思議でしたよ」
「私もリカの面会に行ったんですが、面会禁止で会えませんでした」 主犯格には接見禁止が付いていたんだろう

「で、じつは、タエちゃんの事も心配なんで、もし、俺を信じてくれるなら、弁護士さんの名刺か何か、見せてくれませんか?」
「知り合いの弁護士を通して、リカさんやタエちゃんの様子を聞いてみたいんですよ」
「事件が大きな事件なんで、手遅れにならない内に様子を知りたいんです」
「強盗致傷、監禁・・ともなれば実刑5年以上は確実ですからね」
「・・・・・」 大粒の涙をテーブルの上に落とした
「弁護士さんも、難しい・・・と言ってました・・・」
「少しでも力になりたいんですよ 俺は」

 ママがゆっくりと腰を上げて2階への階段へ背を向けて歩き出した。 2階も客様のダイニングスペースがあるのは知っていた。 多分、3階以上が自宅になっていると思われた。 
 2階の階段を上がるママの肩に手を乗せ 「良かったら、事件になったもう1人の女、警察に行った女の借用証か身分証明書IDのコピーも見せてくれませんか。 下で待ってますから」 と、背中から話しかけた。

 テーブルに戻り、タバコに火をつけママの戻りを待った。 相変わらず客は2組のままだった。 ひと組はタイ人とひと目でわかる女と現場姿のおやじがテーブルいっぱいにおかずを注文させられていた。 タイ人女はここの常連で、売り上げのバックでももらうのだろう。 もうひと組は2人とも背広姿で、役場か証券マンなのか、会社の待遇の愚痴をこぼしていた。
 ここ、ゲオ チャイの価格は安くは無い。 愚痴話しなら安めの焼き鳥屋にでも行けばいいものを、不釣り合いな背広男だった。


 2本目のタバコを吸い終わると2階の階段からママが書類を手に下りてきた。 明るい店内だが、ママの足元だけが深い闇に包まれている様に暗かった。 ひと足、一足、確かめながら階段を下りてくる。
 厨房の脇からゆっくりとテーブルの方へ近づいて来た。 椅子に腰を沈めてテーブルの上に1枚の名刺と便箋に書かれた借用書と身分証明書の裏表のコピーだった。

「これが弁護士さんの名刺です」 テーブルの上でこちらに差し出した
「失礼します」 手に取って見る
 肩書きを見て驚いた。 事務所に所属しない弁護士だった。 つまり、ロートル爺の定年過ぎの弁護士の名刺に思えたのだ。 
名刺には「東京弁護士会 弁護士 佐藤幸一 と、住所、電話番号だけの簡素な名刺だった。
 一般的な弁護士の名刺なら「東京*地区弁護士会所属 **事務所 名前 電話番号」が、書かれているのが普通なのだが、テーブルの上の名刺は、定年退職した個人事務所の弁護士だった。 今時、弁護士1人だけの事務所など考えられない。 案件が多いので、数名の弁護士と秘書とで1件の案件を片づけるのが普通なのだ。

「この弁護士さんは、リカさんが逮捕された 後 に付けた弁護士ですね?」
「え?なんで分かるんですか?」
「それも、誰かにママさんが教えてもらって、警察署にいるリカさんに、合いに行ってもらった弁護士に「裁判の時だけの弁護でいいですか? それとも、今から裁判まで弁護しますか?」と聞かれて、全部お願いした弁護士でしょう」

「そうなんです・・・」

 あちゃ~、完全に弁護士に騙されたパターンだった。

 強盗致傷や、強姦事件、放火では、罰金や執行猶予は無い事は、弁護士も100も承知だ。 監禁も重い。 なのに、やる気の無い弁護士が外人という美味しい「餌」に食いついたのだ。 「誠意いっぱい頑張りましたが、実刑は免れませんでした」で、終わり。

「たぶん、高齢のおじいさん弁護士でしょう」
「え~?どうしてそこまで分かるんですか?」

 分かるも何も、名刺1枚で前途が真っ暗になってしまったのは俺の方だった。 相手側の検察官や裁判官との打ち合わせも1、2回で型通り済ませ、裁判で決まり文句の弁護だけをして300万円も400万円もふんだくる気でいる。

「で、幾らって言われたんですか? 今回の事件」
「4人分だから200万円くらいだけど、強盗がついてる容疑だからプラス1人100万円で、5~600万円はみて下さいと言われました。 でも、刑務所に行かない保証は無いと・・・。 もし、実刑なら半額の400万円で良いとも言ってました・・・」

 弁護士側の詐欺事件だわ、こりゃw。 実刑確定でも400万円って・・・。 酷すぎる弁護士である。

「それで、着手金と言って、最初に200万円を渡してます」
「え? もう?」
「はい。 残りは判決日の2~3日前でいいと・・・」 おい!詐欺だろう~これはもう・・・まったく


 今回は完全に実刑判決が待っているパターンだ。 まずい。 このままでは1人4~5年は堅い。

 要するに、ママの妹のリカさんが逮捕されて、慌てて誰かに相談→適当に当番弁護士を教えられ、お願いする→国選タイプでいくか、私選タイプで行くか尋ねられ、藁をもすがる気持ちで国選から私選に変更手続きをする→料金が0円から400万円に跳ね上がる→しかし、4人とも実刑で残念判決。 儲かるのは弁護士ただ1人だ。

 この様に美味しい外人ばかりを弁護する国選ロートル爺弁護士も多い。 弁護士に定年退職が無い結果の悪夢だ。

「まぁ~余裕があれば、途中で弁護士の解任や新しい弁護士を雇うこともできるけど、時間に余裕が無い事と、金額が大幅に高くなりますからね・・・」


「で、この書類は・・・・あ~お金を借りた女の借用書とタイ本国のIDですね」
「そうです。 妹が貸してたらしんですが・・・100万くらいだから、すぐに回収出来ると思ってたらしんですが、毎日パチンコばかりで腹が立つ!と、言っていました」

「で、今回の事件かぁ~」
「・・・・」

「IDは本物みたいだけど、普通はパスポートも預かるんじゃないの?」
「今はタイ国のIDがあればおおよそ本人を探し出せるんで、これだけなんですよ・・・」

「困ったなぁ~・・・・期待していた弁護士が国選なみの弁護士だったとは・・・流石にショックだわぁ俺も」
「・・・・・」

「バリバリの弁護士で、判事とも検事とも掛け合ってくれて、強盗 と言う罪名を消してもらえないと・・・キツイね」
「このままでは刑務所ですか?」
「4、5年は確実でしょうね」

「うううう・・・・」 大粒の嘘の無い涙でテーブルに伏せかかってしまった。

 妹のリカと一緒にタエちゃんまで3年以上は確定してしまうのは俺として辛い。
 何とかしなくては。
 
 たった一つ、ここ、ゲオ チャイへ来て、主犯のリカの姉であるママさんと話せた事がせめてもの収穫だった。
 そして、今の弁護士では遣い物にならない事も良く分かった。


 ある女に、分割返済約束で書類と本国IDを担保に100万円を貸したが、返済が滞り、あげくの果てに知人からのチクリでパチンコ通いがバレて、頭に来たママの妹が一緒に食事をしていたタエちゃんと2人、妹の彼氏の車で相手方のアパートまで乗り付け、3人が部屋へ押し入り、殴り、持っていたバックから財布を抜き取り、現金数万円を窃取して、あげくの果てに、彼氏のアパートへ連れ込み、説教と新しい借用書を強制的に書かせた後、解放した。
 解放された女は腹が納まらずに警察署へ駆け込み、告訴。

 どこからみても、傷害、強盗、拉致監禁、脅迫強要が付く。 強盗致傷、監禁、闇金・・・安く見積もってもこれだけは付いてしまう。
 どこの世界にこんな 100 VS 0 で負ける裁判を引き受ける弁護士などいるはずも無い。 いるとすれば、定年弁護士の小遣い稼ぎくらいしかいないだろう。

 断崖絶壁での絶対絶命だった。



 しかし・・・俺の頭の中には一つの案が浮かんでいた。



「ママ、俺を信じるか、ロートル爺弁護士を信じるかは難しいと思うけど、この事件は俺に任せてみてはくれないかなぁ」
「え?」
「もともと、俺は妹さんのリカさんの為にここに来たんじゃないし、今、話を聞いた限りでは多分100%実刑になると思う」
「・・・」
「そこで、俺は友達のタエちゃんを必ず助ける気でいるから、そうすれば、妹さんも一緒に必ず助かると思うんだよね」
「・・・」
「いきなり、知らないヤツに、大切な妹の事件を任せるなんて、あり得ない話だけど、俺なら出来る気がするんだよ」
「・・・」
「そこで、一つ、頼みがあるんだけど、妹さんとタエちゃんの為に」
「・・・なんですか」 涙を紙ナプキンで拭きながら、すがる目で見上げた
「そこで・・・」
「お金ですか? いくらでも払いますから。 200万円でも500万円でも、好きなだけ言って下さい」 目に力があった

「いや、お金じゃない」
「え?」
「頼み事は一つ、2日経ったら、弁護士に連絡をして「もう弁護をしなくてもいいです!」とハッキリと伝えて下さい」
「え?弁護士先生は要らないんですか?」
「ええ、今までの話からと、俺の経験からだと、今の弁護士では、いても、いなくても結果は見えていますから」
「で、どうするんですか?」

「俺の知り合いに弁護士の友達がいますから、彼に警察と検察の両方の様子を探ってもらいます」
「おかねは・・・」

「良く聞いて下さいね! 弁護士は俺の友達です。 だ、か、ら、お金は要りません。 友達からお金を取るヤツではないんでね」
「その代わりに、大事な事をもう一つ、お願いします」
「なんですか?」

「だれか知り合いにタイに飛んで行ってもらって、このIDの娘の家族関係、親戚関係をすぐに調べて欲しいんです」
「この・・・お金を貸した娘の家族と親戚を調べるんですか?」
「そうです。 できますか?」
「そんなことなら、電話1本でも、すぐにタイに電話すれば出来ますけど・・」

「OK!」

「では、今回の件は 新宿のめめ に任せて下さい。 ダメだったら・・・俺も、それなりの覚悟はしています」
「・・・・・」
「いいですね、頼み事は二つ」

「一つ目は2~3日中に弁護士に連絡をして、今後の弁護の依頼をお断りして下さい。 多分、半分くらいは手付け金は戻って売るハズです。 弁護士にしてもいいお小遣いです」

「二つ目はタイ本国に連絡をいれて、このIDの女の家族、親族、出来る限りの情報を集めて下さい。 出来ますよね」
「・・・・わかりました。 できます」


「俺はタエちゃんを助けたい。 その事で、妹さんをも救う事が出来るんですから、ね」
「もし・・・もし、妹が戻ってきたら、めめさん・・・・」
「もし・・・はありません。 必ず戻して見せます。 タエちゃんも、妹さんも。 信じて下さい!」
「お金なら、いくらでも払いますから・・・・」
「俺も、ママには叶わないけど、少しくらいな持ってます。 不自由はしてませんから^^」

「新宿のめめを、1度だけでいいですから、信じてください!」
「宜しくお願いします」

紙ナプキンが涙と鼻水でビジョビジョになってしまった。 足りなくてティッシュボックスも取りだした。w

テームルの上の弁護士の名刺を写メして、借用書とIDも携帯で写メして保存して、ママに返した。
隣のテーブルの上から紙ナプキンを取り、俺の携帯の番号を書いて渡した。 090-9312-9797 めめ。



 この度は少し荒療治にはなるが、この方法以外は助け出す方法は見当たらない。

 まあ~たまには悪役もいいかもなぁ~。





                           まじいなぁ~  ・・・ No25へ




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